読物の部屋その8〜2
★読書録 (6)★    ーーー3/30 徳淵 誠 記

東京駅八重洲南口のホンダ八重洲ビルの2、3軒手前に八重洲ブックセンタという本屋 がある。新宿駅南口前に高島屋と同居する形で最近開店した紀伊国屋書店ができるまで は日本一の品揃えを誇っていた。「日本外交史」を書いた鹿島建設の鹿島守之助さんが 主導してできた書店だと聞いている。ここでは時々作家の著者本のサイン会を行ってい る。6年くらい前のこと、フレデリック・フォ−サイスさんの小説「Negotiat or」の日本語版の出版記念サイン会があったので行ってみた。八重洲ブックセンタの あるブロックをとりかこんで2列の行列ができていて学会業務を終えて最後列にならん だ。だんだん行列が進んで店内に入った。入口には日本語版が平積みにされていて、サ インをしてもらう人はその本を買って、サインをもらう仕組みになっていた。

実は1989年4月パリのブレンタ−ノ(オペラ通りにあるパリで一番の英米書店)で 原書を買って読んでいたのを持っていった。その本を差し出すと彼は機械的に無表情で 顔も上げずサインしてくれた。チョッとがっかりした。原本を出したので、オヤとか一 言二言会話が交わせるかナと期待していたからである。

フレデリックフォ−サイスの本を読み始めたのは彼の第1作(第2作か?)を映画化し た「ジャッカルの日」をみてから。映画の中で今も覚えているシ−ンが2ツある。主人 公が仏大統領暗殺指令を請け負って仕込銃松葉杖をベルギ−で調達する場面。ベルギ− には有名なFNのブラウニングライフル銃があり、職人に頼んで松葉杖の中に仕込んで もらう。ベルギ−は現在は地雷禁止条約を世界中に広めているが知る人ぞ知る武器輸出 国である。もう一つのシ−ンはこの武器をもってイタリアンリベエラから南仏を北上す る途中で、金持ちの中年未亡人の家で追手をまくシ−ン。この未亡人が男好きのする人 で、上半身裸で両手で豊満な両乳房をもちあげ鏡を見ながら「私もまだまんざらではな いわネ」とニヤりとつぶやく。映画をみたあと原作を読んだ。このシ−ンがどう書かれ ているか。原作にはみつからなかったように記憶している。しかし、勿論小説自体は面 白く、徹夜で読了した。これに味を占めて、「オデッサファイル」、「悪魔の選択」、 「第四のプロトコル」、「戦争の犬」など出版されるたびに買って読んでいる。海外業 務出張で大きな楽しみの一つは空港などの本屋でフォ−サイスのベストセラ−本をみつ けることであった。先に紹介した「Negotiator」もパリに業務出張した際に 買った。
彼はノンフィクションの手法でフィクションを書いた最初の人ではないか。現実の本当 の事実、人物、場所、情景を描きながら、読者は彼のフィクションの世界に引き込まれ てしまう。本当の事実、人物、場所、情景をよく知っている読者ほど彼の仕掛けにはま るらしい。なにしろフィクションに関係するホントの事物についても微に入り細に入り 描写しているから、読み手は、フィクションの部分もホントと思わされる仕組みとなっ ている。いわゆるディ−テルにこだわる作家である。彼は新聞記者を長くやっていたか らそれをさらりとやっている。何作目かに「ジャッカルの日」に似た筋の小説がある。 その中にブラッセル郊外のワリビ−遊園地が出てくる。ベルギ−駐在中よく子供をつれ ていったところ。本の描写とそっくりである。ここで少々脱線すると、パリ駐在中、エ ッフェル塔には昇らないと決めていた。昇ったことがない東京タワ−に対して失礼だと 思ったからである。駐在3、4年目にそれが破られた。アテンドしていた運輸省高官が エッフェル塔に連れていけといった。20数年前のことであるから、これは至上命令で ある。それで彼を案内して液圧エレベ−タ−で上に行ってみてオドロイた。地上の景色 はミシュランガイドの地図とそっくりであった!

主題を続ける。ジョン・ル・カレのスパイ小説は英語がむずかしいのであまり読んでな いが、実話の部分が多いときいている。フォ−サイスの小説は、いかにもありそうに話 をすすめる。ベルリンの壁がなくなったので彼らの小説も尤もらしいネタさがしがむず かしいらしい。フォ−サイスの最新作は「ICON」。1997年2月ニュ−ジ−ラン ドに 行った時ウエリントンの本屋で購入。表紙カバ−うらをみると1999年のロシアの話 。まだ読んでない。1999年迄生きて、現実と小説とどう違うかという気分で読むの も悪くない。

★読書録 (7)★


読書録(3)で渡部昇一さんの本に大変失礼なコメントをしたが、彼の著書は「知的生 活の方法」他だいたい読んでいる。なんで読んでいるのか? アイデンティティと読書 の楽しみへの共感。後者については読者諸氏もだいたい想像がつくであろうから、割愛 する。
それでアイデンティティ。あんただれ? ときかれて明確にこたえられなくて、わたし だれなんでしょうとあわてて自問するようではダメと、最近ようやく日本でもいわれる ようになってきた。定年退職者にとっては必須課目である。

海外駐在経験者の諸氏はご存知のとうり、駐在地で、あんただれ?ときかれているよう に思うことが多い。正直いうと,ハテ何者と当惑することしきりであった。フト気がつ いて愚息たちには駐在先で柔道を習わせた。彼らはなんでサッカ−にしてくれなかった のとブツブツいっている。彼の場合は留学先でそういうこともあろうと前以って準備し ていたことを買っている。彼の著作を読みながら自分のアイデンティティを見出そうと 努力しなければならないことを自覚できたことに感謝している。エルビス・プレスリ− も歌っているようにIt's Now or Never 。

ということで、渡部さんの「日本史からみた日本人」。これまでの学校教育から得た歴 史感覚で、Yes, I am Japanese. In my case, ....と確信をもって問われた相手にい うことができるか、それができるようになる本である。

この本を読んでいて日本人であることをベ−スとして、おおげさにいえば自分を知って 生きていくことの大切さを教えられた。デラシネ(根無し草)はだらしねエ。米国大統 領とファ−ストネ−ムで呼びあうようになったと、日本の首相が自慢したようだが、こ れは田中絹代のアメションに近い。

日本の近代文学の神様といわれている志賀直哉は終戦後、日本語はナンジャモンジャで よく分からないから日本人はフランス語を使いましょうといった。戦後の混乱で彼の頭 がおかしくなったためだと思いたいが、この例は自分のアイデンティティをもっていな かった人の典型例であろう。この本は渡部さんなりの日本史観を古代から昭和まで述べ ている。読み進むうちに自分でも不思議だが、上記のように本の内容に直接関係ないこ とを自覚させられた。それで海外駐在生活もスム−ズ(ス?)にいくようになった。

彼の「知的生活の方法」に刺激されてマズロ−、ウエインダイヤなど読んだが、長くな るので別項とする。

★読書録 (8)★


学校で英語を習う。次は実地にためしてみることになる。何から読み始めたらよいか中 学の友達(今はたしか筑波大文学部教授)にきいたら、アガサ・クリスティの「そして 誰もいなくなった」がよいという。早速古本屋でカンガル−印(光文社のカッパブック スはここからでてきた)のポケットブックをみつけて読んだ。高校の英語力でもスラス ラ読める。粗筋は、有名なナ−サリ−ライムをテ−マにしていて、小さな島に10人位 集まった人達が皆、次々殺される。島から逃げ出した人はだれもいない。さて犯人はだ れでしょう。

推理小説は犯人当てをしながら読めばいいので知らないうちに最後まで読めてしまう。 それで次から次へと彼女の作品をポケット ブックスで読んだ。英書の読み方を楽しみ ながら学んだことになる。彼女の作品は大きく分けてポアロ本とミス マ−プル本。ポ アロ本では、探偵のポアロがベルギ−出身なので時々、会話の中でフランス語を一言、 二言喋る。学生時代に読んだ時は、このフランス語に犯人を捜す鍵が入っているのかナ 、でも分からなくて残念と思っていた。フランス・ベルギ−駐在で片言のフランス語な ら分かるようになってからは、アガサ クリスティの書き方の秘密の一つを理解した。 ポアロは小説の筋には関係ないフランス語を喋っているのであった。英国人にとってフ ランス語はあこがれの外国語なので、読者を煙にまく、つまり彼女はすごい、フランス 語も使えると思わせるためだったのだろう。

アガサ・クリスティは自伝、評伝を読むと分かるが彼女自身にもミステリアスな部分の ある人だが、短編、長編どれをとっても、読んで損をしたと思った事がない。全盛時代 にはハ−ドカバ−本を年一冊ずつ出版した。彼女のファンはそれを2冊買い、1冊はワ クワクしながら自分で読み、もう1冊は知人にクリスマスプレゼントするのが当時流行 の最先端だったという。彼女の最後の作品は今はやりの趣味の一つであるバ−ドウオッ チングは人間のネクラな欲望のぞき趣味であることを暗示させる。

★読書録 (9)★


「女のすなる日記を男もしてみんとて...」(現代表記法による)と紀貫之は土佐日 記を平仮名で書き始めた。それにならってというとおこがましいが、料理をしている大 多数の女性に伍して料理をしている男性の一人として、料理本他食に関する本の読後の 感想をしるす。

プロフェショナルになるのは料理人をはじめ男に限定されているようである(例外は出 産)。知的生産物(宗教を含む)を産み出しているのは人類始まって以来、男が大多数 を占めている(編注:それが真実なら女にとってもこんなに幸せなことはないのだがね ...)。知的生産物を作り出すのは脳である。男と女は脳の働きが異なっていると思 わざるを得ない。脳の機能は脳の構造から生じるのだから、男と女では脳の構造がだい ぶ違っていると思われる。頭毛の本数ではないだろう(編注:薄い者の僻みか?)

知的生産物である料理に関する本ではどうか。男性の書く本は理屈っぽく、手順を書く 本が多い。代表例は丸元淑生さんの諸本。食物の栄養、料理道具のうんちくを並べて書 いている。なるほどと思って買い入れたものもある。例えばステンレスで二重にアルミ の板をクラッドしたビタクラフトの鍋。サントリ−で販売している。

彼の紹介している学説の中にアルツハイマ−症で死んだ人の脳にはアルミニュ−ムが常 人より異常に高いレベルで蓄積されているというのがある。拙宅ではアルミ鍋は一つし か残っていない(編注:のにどうして? その一つが悪かったのかね)。NHKのテレ ビ番組「今日の料理」では今でもアルミ鍋が数多く使われているが、ボツボツ、ビタク ラフト鍋の使用例が見られる。実用書として異色なのは鈴木雅己さんの「男の家庭料理 自由自在」(農文協刊)。読み物としても面白い。長年居酒屋を出していた経験からお 米の研ぎ方から始まって簡便料理法を数多く紹介してくれている。その研ぎ方は3、4 回研いてからザルにあげて30分以上してから炊けと書いている。拙宅出入りの米屋の コシヒカリ5K入りビニ−ル袋には研いだあと30分以上水につけてから炊くとおいし い御飯ができあがりますと書いてある。今だに決着のつかない2説があることが分かる 。両方試しているがよく分からない。ちらしずし、にぎりずしなど加工食品用の米飯と してはざるあげ法がいいらしい。「かえし」も紹介されている。ソバ屋の秘伝のたれだ そうだ。常備の万能和風ソ−スとして重宝している。彼は最近燻製本を2冊出して、そ の中に書いてある御自身で考案した燻製オ−ブンを持って全国を飛び回っているらしい 。このオ−ブンを買って冬の県立樹林公園で試した。冷燻、温燻、熱燻ができる便利な すぐれ物である。

女性の書く料理本はいかにも食欲をそそるように書いてある。やはりそれとなくさそう のは昔から女の方だというのもうなづける(編注:さそわれなかった男たちはここに集 まる...?)

古い方から言うと辰己浜子さんの料理歳時記(中公文庫)。こまやかな筆使いで季節お りおりの食材とその料理を書いたすぐれた随筆。時々読み返している。中に滝川豆腐が 載っている。この豆腐そうめんは自分では作らないが、JR新橋駅前の蒸気機関車の置 いてある広場からチョット入った均一亭で夏の季節に味わえる。彼女の娘の辰己芳子さ んも「手しおにかけた私の料理」を婦人之友社(今でもある!)から出している。読ん だがお母さんにはかなわない。彼女は朝日新聞に連載コラムを持っていたが、いかにも いかにもという臭味のある文章の前説があり、読み物としては頂けない。作る気も起き ない。

江上栄子さんの本、グラフ社出版のビジュアル本、小学館発行の雑誌「サライ」の記事 を再録したシリ−ズ物は読書録としては書くに値しない。ムック本を毎月出して現在2 5号まで出している専門家向料理本のしにせ柴田書店発行の諸書もここには書けない。 読んでないから。食に関する本は食った旨かった系列もある。ブリヤ・サラバンの古典 「美味求真」(白水社)、邱永漢さんのもの「食は広州にあり」(中公文庫)、東海さ だおさんの一連のシリ−ズなどである。この系列で最近気に入っているのは東京農大教 授小泉武夫さんが日本経済新聞夕刊に連載中の「食あれば楽あり」コラム。いずれ単行 本として刊行されることを期待している。

以上ハウツ−本の1例として料理及び食に関する本を並べた。ハウツ−本はエロ本と同 じ位買うのが恥ずかしい。しかし勇気を出して買って読めば上述のように楽しい本もあ る。
Last but not least。平凡社刊の笠井一子著「プロが選んだ調理道具」(¥1,600 )ビジュアル本)。pp18−22のおろしがねをご紹介する。和光市在の大矢製作所 のもので浅草合羽橋の問屋に卸している。わが住む街にも地場産業があったのである。 家から30分歩いて行ってみた。しもた屋風の2階屋の中で創業者大矢さんの息子さん からそのおろし金を買った。¥5,000。性能は抜群。ピ−ラ−で皮をむいた大根を おろし金の上で軽くすべらしているだけでおいしい大根おろしが出来てしまう逸品であ る。

★読書録 (10)★


浪人生活をやっと終えて大学に入ると一般科目履修登録申込用紙を渡された。心理学週 一時限年間4単位とあり、他の教科と共に申込み手続きをした。その心理学の講義をき いてガッカリした。出てくるのはネズミを平面迷路に放つとどう行動するか、いまから 思うといわゆるスキナ−流の行動心理学講義でした。2、3回聞いて失望して、あと講 義を欠席したので単位は取得していない。人間の心理学はないのか!心理学とは分かり きったことを分からない言葉でのべる学問であるとどこかで読んだ。なるほど! よう やく最近になって読むにたえる心理学本が出始めた。MITのミンスキ−教授の「心の 社会」(産業図書)、ペンロ−ズの「皇帝の新しい心」(みすず書房)、「認知科学通 論」(新曜社)、「人間 このしんじやすきもの」(新曜社)など。どれも人間の心理 の動き具合を追っていて面白い。ミンスキ−教授はエ−ジェントという概念をこの本で 提唱している。人間は勿論動物である。この面から人間心理を見た本もある。ボディラ ンゲ−ジの本が数多く出ている。例えば「非言語コミュニケ−ション」(新潮選書)、 「身振りとしぐさの人類学(中央新書)。極めつきはデズモンド モリスさんの諸著作 。「裸のサル」(角川文庫)はもう古典となっていると思う。人間の行動は脊髄神経反 射行動もあるが、脳の働きによる行動が大部分である。ならば人間の行動は大部分が心 理学の領域となる。縄張り争い、ペッキング オ−ダ−などなど。人間で言うとさしさ わりがあるので控えるが、鳥はお互いくちばしでつつき合う。ト−ナメントだか、リ− グ戦だか知らないが、そうやっているうちに自然と序列ができてくる。動物としての人 間のふるまいの諸相を歴史的に書いている。彼はビジュアル本も2冊出しており見るだ けも楽しい。「マンウオッチング」と「ボディウオッチング」。御愛嬌なのは「マンウ オッチング」の見開き2ペ−ジに浮世絵のあぶな絵がウラ焼きとなっていたと覚えてい るのだがいまパラパラ本をめくってもそのペ−ジに行き当たらない。邦訳版では勿論訂 正されているであろう。

この拙文シリ−ズは読んだ本について記憶をたどりながら書いているのだが、記憶は怪 しいことを最近気付かされた(これも心理学の研究項目)。読書録(6)でフレデリッ ク フォ−サイスの「ジャッカルの日」を書いて、その中で未亡人が乳房をユサユサ云々と 書いたが、先日ノ−カット版と称するテレビ画面を見ていたら、この場面はなかった。 あまりにも鮮明に目に焼きついている場面なのだが、残念ながら記憶違いか?(編注: アルミ鍋...?)念のため友人の白河の別荘にあったポケットブック版でチェックし たがやはりこの場面はなかった。友人曰く幻想だヨ!(編注:ないものねだりだよ)。 尚、原書を読んだ記憶で主人公がベルギ−でブラウニング銃を改造云々と書いた。これ はそのとおりであることを確認した。映画ではイタリアン リビエラで改造している。

さて、心理学本の話であった。フロイト、ユンクを読んだが皆、変な人の心理について の話であった。渡部昇一さんに刺激されてマズロ−の「人間性の心理学」(産能大出版 部 昭和46年初版)を読んでホッとした。出版社をみると、当時彼は日本心理学会から認 知されていなかったことが分かる。ふつうの人の心理について述べている。人間は生存 の欲望から始まって自己実現の欲望に至ると結んでいる。最近はミ−イズムの理論的根 拠を与える説として批判されているが、そうは思わない。ふつうの人間のふつうの成り 行きであろう。マズロ−をベ−スとして心理カウンセラ−をやりながらウエイン ダイ ヤ−が書いたのが「Your Erroneous Zone 」。今は三笠文庫で渡部昇一さん訳のものが 出ている。「Pulling Your Own String 」「Sky is the Limit」も邦訳されている。

生まれて以来ジクジク、今で言うとつぶやき シロ−みたいに過ごしてきたのが、パッ と目覚めさせてくれた本どもである。言うのも恥ずかしい! 心理学からやっと恩恵を 受けた。心理学はいまのところ切ない学問であろう。なにしろ心理の源、人間の脳の働 きが皆目と言っていいほど解明されてないのだから。頭をポンとたたくとカン?と反応 する、いやイヤン?と反応するとか脳というブラックボックスのまわりでワイワイやっ ている感じである。

そこのところにさっそうと割り込んできたのが解剖学者養老猛司さんの「唯脳論」(青 土社)。養老さんは言う。心臓は2心房2心室の構造をもつ臓器で血液のポンプとして 働いている。脳は大脳、小脳・・・で構成されていて、働きは考える思う(他の諸器官 に指令を発することもあるが)ことであると喝破した。心身論? バカバカしいという ことになる。神様、仏様、天国、地獄? ウン?ということになる。このアプロ−チで 研究した心理学の本が続々出てくることを期待したい。但しこんな風に脳をいじること は主にソフト研究方面でタブ−となっているらしい。これもとても人間らしい振るまい である。デズモンド・モリスさんのコメントが欲しいところである。多田富雄さんの「 生命の意味論」(新潮社)も免疫学からのアプロ−チでこの方面に言及している。

話を大分広げてしまったが、これらの本を読みながら人間を見ると本当に面白い。池袋 駅から出ている東上線に乗っている人達、新宿駅から出ている小田急線に乗っている人 達、渋谷駅から出ている東横線に乗っている人達それぞれに特徴がある。顔を眺める、 車内の匂いをかぐ・・・失礼ながら応用心理学の実習?としてひそかに楽しんでいる。

今日も平成10年12月9日付日本経済新聞朝刊一面下の書籍広告欄に”わかりやすい 心理学者”として有名な著者による「人はなぜ足を引っ張り合うのか」(プレジデント 社、¥1600)が出ていた。買うつもりはない。

応用心理学実習例をもう一つ。会社の出先の学会事務局で働いていた時、妙な人の動き に気付いた。自己実現セミナ−への勧誘を勤務時間中にやっている。確信犯(?)とし てうまくやっている人と、はたからみるともう浮ついてだれかれかまわず説伏している ようにみえる人とがいた。説伏にあって、本能的に私はイヤですとキッパリ言う立派な (?)人やなぜ仕事中にこんな話をきかされるのですかと言ってくる人もいた。会社人 事は労働組合が問題にすると言っていると言うので、まずその自己実現セミナ−を体験 実習してから対応策を考えることとして品川駅近くの魚藍坂下のセミナ−総本山に行っ た。若いひとたちがウジャウジャいて皆ハツラツテキパキと動いている。所要手続き( 料金¥120,000 の支払いを含む)をして次の日から第一ステ−ジ1週間の日帰りコ−ス に約200人の大部分若い人達と共に参加した(19H−21H00)。オドロオドロ したワグナ−の調べを聴かされ、「この一週間酒を飲んではいけません、セミナ−終了 後一ヵ月間はこのセミナ−で知り合った人と性的関係をもってはいけません・・・以上 約束出来ない人は今すぐこの会場から出ていきなさい」と講師から言われて、会場の分 厚い扉が閉まりセミナ−が始まった。仕掛けがよくできている。参加者全員が2重の輪 になって並び立ち、互いに逆方向にまわって抱き合う(とてもいい気持ちでした)ゲ− ムを含む集団催眠コ−スでありました。すっかりはまった人の中には会場に寝ころんで てんかんみたいな痙攣を起こす人もいました。セミナ−終了後たしかにサッパリした気 持ちになりました。

次いで¥380,000 会社から払込みしてもらって第二ステ−ジに参加した。山中湖畔のホ テルに一週間缶詰となるコ−ス。3日目さすがに白けた。セミナ−主催者としては白け た人間が一人でもいると他の参加者に伝染するのでヤバイと思ったのであろう、名指し で「50面さげて恥ずかしい?何ですか、今すぐ退場しなさい!」。すごすご帰宅。セ ミナ−事務局からは料金全額会社に振込返金された。追ん出されたあとの感想は衣・食 ・住を充たされた人間はそのあと心の充足を求めるというマズロ−理論が見事に実証さ れていた。にわとりの両翼をつかんであお向けにし、腹部をなでていると両眼を閉じて ゴロンと死んだようになる。人間を意識的に眠らせるにはもっと込み入った仕掛けがい ることを学んだ応用心理学実習であった。

このセミナ−のいやらしいところは説伏された若い人達をただ働きさせてビジネスして いるところである。心理学のネズミ講講座(有料)。別冊「宝島」シリ−ズ(JICC 出版局刊)の一冊にこのセミナ−の詳しい潜入レポ−トがある。人から貰ってそのコピ −を読んだ。セミナ−旋風にあらされた学会事務局対応策は読書録と関係ないので、こ こでは触れない。心理学の簡便案内として、朝日新聞社から AERA MOOK3 「心理学がわ かる。」
(\1,000)が出ている。

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