読物の部屋その51
★読書録(30)             徳淵 誠 

読書録(28)で紹介した山の師匠はエネルギッシュで世話好きだ。彼が世話している グループは関係させてもらっているのだけで4つもある。60歳以上の男女のロマンを 語るグループ。東京歩こう会。これは何処から歩き始めても最後はJR新橋駅ちかくのお 酒だけで焼酎を置いてない小料理屋「均一軒」で締めくくる会。ごく稀に乱闘が生起す ることもある曰くいいがたしの面々が集まるグループ。4つ目は日本の山歩こう会(仮 称)。

4人のグループでこれまで東西の東北、四国、中国、九州と自家用車で麓に行き山をほっつき歩き、温泉につかる集い。その九州旅行は連休明けの5月12ー19日7泊38 00KM弱。酒代飲み代高速料金ガス代すべてコミコミ一名様¥118,000.-。3日目だと思 うが、指宿の池田湖で胴回り60cmx体長170cmの大うなぎ(県?市?の天然記念物)を 見た。それで思い出したのが井伏鱒二の「山椒魚」。この方の作品は前から好きで小説 、随筆の初版本、筑摩書房版の現代日本文学全集「井伏鱒二集」(なんと箱入りで頌価 ¥430!)など読んで保存している。ほのかな、ほのぼのしたほろ苦い極上のユーモア、 今で云う癒し系の日本文学の巨匠であろう。晩年は認知症にかかり評判は良くないよう に噂されているが,若い頃の出世作「山椒魚」をとにかく指宿の大うなぎを見て思い出 した。思い出しついでに云うと、大うなぎは湖底から湧き出る温泉で肥大したのだろう し,井伏さんの書く山椒魚はひょんな事から川渕の穴に入り込みまともに成長し、気が ついたら穴からでられなくなったのだろう。うちのバカ猫と同じように見えるが行動が なんとも可愛らしい。他にモリシゲさんの映画にもなった「駅前旅館」、骨董物の元祖 の「珍品堂主人」、ノーベル文学賞候補の「黒い雨」(これは盗作騒ぎがずーっと続い ていた)、「荻窪風土記」 などなど。荒川の出城の鉢形城近くで鏃の入った材木を拾った事から始まる若武者の物 語「武州鉢形城」は読みかえすたびに東上線小川町駅から鉢形城跡まで歩き、帰りに川 の橋のたもとにあるソバ屋でざるそばと2合徳利の常温酒で、この若武者を偲ぶことに している。現今の癒し系の風潮の行き着く先は必ずや井伏鱒二の再評価、リバイバルで あろうと確信している。

突然ですがここでご挨拶。数年の中断の後この読書録はやっと(30)になった。人間 の年で云えば還暦の半分。中途半途そのものですが、ここで終わりにします。ご愛読い ただいた(であろう)皆様に堀内孝雄流に「ありがとう!!!」と申し上げます。

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