読物の部屋その30
★USAレンタカーの旅★ーーーー薩摩風見鶏(飯牟礼孝一さん)       

今日は2002年6月23日(日)。インディアナポリス郊外のH氏夫妻のお宅を8時15分に出て、イン ターステーツハイウエイ70をColumbusへ向かう東へ走っている。昨晩はK氏を交えて大いにお酒を 酌み交わし、7時間も熟睡した上久し振りの和食をたっぷりご馳走になったので体調は万全である。  

外は30℃以上もあろうかと思うほど太陽がギラギラと照りつけていて、日本から持ってきた日焼 け防止のアームカバーが役立っている。目に入る風景は、やや殺風景な農村地帯で地平線が見える。 どの車も法定の時速65マイル(105Km/h)をピッタリと守っている。路面にはバーストしたタイヤの 破片が散乱し、時々猫ほどの大きさの動物の死骸も転がっている。運転中に眠くなるといけないと、 Colorado州Fort Collinsで新生活を初めたばかりの娘夫婦から預かったCDが鳴っている。「Gクレ フ五右衛門」が演奏するオフザケ音楽で、荘厳なバロックが突然サイケ風に変わる。どうも自分の 好みに合わないシロモノだが、眠気さましにはもってこいだ。この辺りは大型トレーラーやSUVが多 く、セダンは数えるほどしか見えない。こんなに多くの大型トレーラーが走ってる米国は景気が回復 しつつあるのだろうか。快晴なのに昼間点灯した車が3割も見受けられるが、点灯ルールはどうなっ ているのだろうか。  

S氏が住むRichmondに近づいた。昨年夏の愛息の悲しい出来事を思い出しご冥福を祈りながら走る。正面の「歓迎・オハイオ・ディスカバリーの州」と書いた大きなアーチをくぐる。前を走っていたアキュラ・オッデセイがDayton方面への出口33へ消えて行った。思い出したようにカーナビが女性の声で「現在の道を続ける」と直訳した日本語で告げてくれる。道路標識にColumbusまで65マイルと出た。緑豊かな丘陵地帯をひた走る。ここで時計を1時間早める。

数台列ねたトレーラーを追越すことが間々あるが、法定速度を守りながら追越すので3分ほどかかることがある。53フィートのコンテナー型荷台をVolvo社製などの運転台のある牽引車(長さ5m)が引っ張っているので1台で全長20mになろうか。これが数台分連なるので思わぬ長さになるのだ。箱庭のように整備されたゴルフ場に白い乗用カートが眩しい。中年カップルの運転するマ黄色いコルベアオープンカーが追越して行った。  

SpringfieldのRest Area(ドライブイン)に入ってひと休みとする。オハイオ時間でもう11時20 分だ。日陰のベンチに陣取りH氏奥さん手作りの冷たいお茶とオニギリをほうばった。オニギリは 日本人にとっていつも元気の素だ。ここで、少々たじろいだことがあった。大のトイレが3ツあった が丸っきり扉がないのだ。良く見ると扉は壊れたのではなく元々無い設計のようだ。ここは中国で はないよね。しかし結果は快便。 駐車場には色んな州からの車が集まっており、インディアナ・カンサス・イリノイ・ペンシルベニア ・Wヴァージニア・テネシー・オハイオと多彩である。  

12時20分に出発した。気が付くといつの間にか地平線の広がるOhioらしい風景になっていた。パトカーが中央分離帯で待ち伏せしているのが目立ってきた。程なく懐かしいJeffersonなんて地名も出てきた。  
ナビが「高速道路出口・右へ寄る・2マイル」と告げる。このナビはHertz仕様の後付けタイプで あり、行き先の都市名・道路名・番地をインプットし、最短距離・高速多用・一般道多用の中から 1ツ選択すると、5秒位で計算して道路案内をしてくれる。画面が葉書の半分位の大きさなので見に くいのが難点。因みに借用料は1日8$、1週間40$である。最初に7ケ国語から日本語を選択し ておく。私のように一人旅且つUSA初ドライバーにとって大変便利なツールである。 Columbusの環状高速道路270へ入り北上するとDublinの名前が出てくる。間もなく、ヴァイオリン 製作仲間のJ.T氏の家だ。会うのは1年振り。この1年で作った3丁のヴァイオリンを弾いてもら った。今までに4名の子供達にそれぞれ1台ずつ作ってあげたそうだ。  

夜、日本レストランでY氏夫妻と昔話しに花を咲かせていたところ、懐かしいホンダの方々にバッタリお会いした。皆さん充実した日々と見え顔色は輝いていた。 24日(月)の朝、A氏夫妻のお誘いに甘えて、静かな森に囲まれたお宅のベランダで当地の楽しいお話を伺いながら朝食をご馳走になった。美味しくて思わずお代わりをいただいた。今日の目的地である Detroit郊外のHenry Ford Museumへの道順の注意点を伺い9時にエンジンを掛けた。

思えば、ここは HAM(Marysville)へ向かうUSハイウエイ33号線の途中に位置している。今回は33を横切りDelaware経由でFindlayへ向け23号線を北へ。跳ねられた大きな鹿の死骸に初めて出くわす。今まで、無かったが道路端の大きな立て看板が目立つようになった。Ohio州とMichigan州の境の町、Toledoまで30マイル地点から徐々にスピードが上がって、65マイル制限のところを75マイルとなる。時々、出来立ての乗用車を10台前後積んだお馴染みの大型トラックが走って行く。プレハブの家を半分に分割してトレーラーに積んだ車にもすれ違う。7月になれば多くのGold Wingがこの道路を通って生まれ故郷のMarysvilleのオートバイ工場へ帰ってくる“Home Coming”の集いが賑やかに行われるであろう。パワーボートを引っ張ってジープが1台、もう夏休みも近い。

高速道路にはWeigh Stationなるところがあって、大型トレーラーは全部そこを一旦通過している。一体何の施設だろうか。トウモロコシの畑が続く。あと2ケ月もすれば身の丈を越す高さになろう。ヒッチコックの「北北西に進路を取れ」の最初の場面を思い浮かべる。ケーリーグラントが農薬散布を装った軽飛行機に襲撃されトウモロコシ畑に逃げ込むあの場面だ。忽然と、白亜のイスラム教モスクが道端に聳える。違和感あるが、これこそ人種のルツボと言われるアメリカの象徴だろうか。Toledoに入った。大きな川が流れる工場地帯を眺めながら走る。久し振りに高層ビルも見える。Ford Woodhaven Stamping Plantという比較的新しい工場の前を通る。

Detroitに近づくにつれ道路面が荒れてくる。ほどなく工事中に変わり、ついに片側1車線となり渋滞になる。その上、出口は全部塞がれ出ようにも出られない。予定のルートから大きく外れた。しかし、カーナビはすばやく新ルートを計算してくれる。
やっと脱出して市街地に 入ってガスを入れる。クレジットカードで支払うセルフサービス店だ。レギュラーを満タンにした。13.3ガロンで18.54$だった。407マイル走ったので、燃費は30.6マイル/ガロン=13.0Km/Lで マズマズの数字である。  

Detroitの西郊外にあるDearbornはFordの城下町である。その一角に目指すHenry Ford Museum があった。ここへ来たのは、Griggs-Detroitor社1913年製のDetroitor Touring Modelの売却に 関する下調べが目的である。ここは世界5指に数えられる立派な博物館である。古きアメリカの生活を体験できるGreen Villageも併設されており、T型Fordにも実際に乗れるし、ライト兄弟(俳優) にも会える。料金は62歳以上のシニアーパック券で19$だった。博物館のコレクションは流石に豊富で十分目的を果たせた。HAMのアコード量産1号機も一等地に展示してあった。ホンダ卒業生であることに誇りを感じる一瞬であった。  

25日はDetroit空港でレンタカーを乗り捨て(乗り捨て料100$)、Chicagoに飛んでヴァイオリン 製作の兄弟弟子にあたるM氏を訪ねた。Chicago Ohare空港からタクシーを飛ばし40分のBarrington へ。料金を確認してから乗り63$にチップ加え70$を支払った。5,500坪の広大な土地に90坪の工房 を兼ねた住居を構え、奥さんと共にもう20年も頑張っておられる。氏の作品は有名な演奏家にも愛 用され、イタリア・ドイツ・アメリカでも数々の賞に輝いている。ご商売は順調なるも2001年から 景気後退の影響を受けているそうだ。奥さんの車はカムリで9年間21万マイル走行しているが、 次は環境に優しいハイブリット車を希望されている。シビックかプリウスにしたいそうだが、20万 マイル走れるかと質問された。ホンダデーラーも初めての車なので10万マイルは大丈夫と答えたら しいが、私も的確な答えに窮した。  

USAドライブは右側通行を除けば日本に比べて大きな違和感はない。高速道路では速度が守られて おり市街地で多少の戸惑いがあったもののすぐ慣れることができた。 赤信号で十分安全が確認できれば右折できることは自己責任ながら合理的だし、道路中央に左折 用レーンがあってT字路で左折するときなど大変安全で便利である。踏み切りは一旦停車しないが 何の問題もない。信号が黄色に変わると、東京と違ってちゃんと停車する。しかし、左ハンドルで ウインカーレバーが左手側にあるので最初は間違う場面が多かった。オートクルーズは使わなか った。道路番号も理論的で、番号が奇数なら南北路、偶数なら東西路で、その標識にWEST(西方面) などと書いてあり迷うことが少ない。但し、空港近くの複雑な立体交差はまるで迷路であり、運悪 くRental Car Returnの標識が真近にならないと出てこないケースなどがあると最悪だ。  

今回、米国のベストセラーセダンとして、アコード・トヨタカムリ・フォードトーラスの乗り比べ をしたかった。コロラドで走行5,300マイルのトーラスを約200マイル乗ったが、良く出来た車で 快適であった。Indianapolisでカーナビ付きカムリが無くて、止む無く24,000マイル走行の マツダ626(カペラ)にしたが悪くない。因みにホンダ車のレンタカーは無い。短期間だったが 600マイル(約1000Km)のドライブを楽しんだ。今回、日本からの素人ドライバーを暖かく受け 入れて下さった現地でご活躍の方々へお礼を申したい。

少しばかり自信を持てたので、また、チャンスがあればUSAを走ってみたい。菜園友達で、キャンピングカーでUSA横断をしてみなないかと誘ってくれる人がいるが、帰国したら一度相談してみたい。娘夫婦もポンコツのVolvoワゴンで十分練習して、2台目にはホンダ車を買って安全で快適なドライブを楽しんで欲しい。 ところで、W杯サッカーの準決勝戦はもう終わっているであろうか。                        
    ―完― 
−−−−2002年6月27日 AA153機内にて


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