読物の部屋その28
★ライフ イン オハイオ ★ーーーーー網野 俊賢氏

         Internet News Letter from the Amino’s in Ohio
                ライフ イン オハイオ              

第1話   高騰したガソリン価格

久し振りにサンフランシスコに住む息子夫婦を訪ねて驚いたのはガソリンの価格です。 レギュラーで1ガロンが1ドル99セント10分の9というのですから実質的には2ドルです。1ガロンは 3.785リットル、1ドルを120円として換算すると1リットル当たり63円となります。日本での現在の 平均価格は多分レギュラーで110円程度かと思いますので、それからすればまだまだ安いと感じることで しょうが1ガロン2ドルとい うのはアメリカではかってない高価格と言えます。

ところでいつもアメリカのガソリン価格表示で疑問に思うのはセントのあとの「10分の9」という表示です。 アメリカの貨幣単位としてはセントが最小のものであるのに、その下の単位を価格として表示しても意味は ないと言えますが、何故かどのガソリンスタンドに行っても同じように表示しています。これはテレビの番組 で隠しカメラを使って見せていたものですが、リポーターが1ガロンを給油して2ドルを出し10分の1 セントもつり銭として要求した時のスタンド係員の反応を報道したことがあります。 

ある係員は質問の意味を計りかね、ある係員はリポーターのしつこいつり銭の要求に怒り出し、そして最後の係員は 「これは慣習的に表示しているだけで本当はもう1セント高いのだよ」と丁寧に説明するというシーンが映し出され ました。アメリカでは価格を少しでも安く見せようとする心理からか店頭での価格表示は99ドル99セントとか 1999ドルとかというのが多く、100ドルとか2000ドルとか書けばよいものを面倒な書き方をしていることが 多く見られます。 しかし自分が新聞の折込広告などを見ているときには、つい「ああ100ドル以下でこれが買え るのか」などと考えてしまうので、まんまと乗せられているのかもしれません。

さてガソリン価格高騰の話ですが、実はこれはサンフランシスコだけのことではなく全米的な現象です。それまでガ ロン当たり1ドル40セント程度であったのが今年3月中旬ころから高騰を始めたガソリン価格はその勢いが衰えず 5月中旬には全米平均でガロン当たり1ドル70セントに達しました。 しかしその後値下がりに転じ、私がいつも給 油するオハイオのスタンドでは昨日(7月7日)の価格が1ドル23セントでした。 これは例の10分の9を1セ ントとして勘定した価格です。 

全米でも地方によってかなりの価格差はありますが、所によっては一時3ドルまで 高騰するのではないかとの懸念もあり、スタンドで掲示する大きな価格表示板に使うプラスティック製の3という文 字盤の注文がメーカーに殺到しているとの新聞記事もありました。あのメーカーは今ごろ注文のキャンセルに悔しが っていることでしょう。 今回の現象でやや不可解に思えることが二つあります。 一つは高騰の原因がはっきりしないことです。石油会社が 価格を吊り上げているのだとか、ガソリン税が高くなったからだとか、連邦政府が有効な対策を打たないからだとか いろいろありますが決め手となる原因は明確でないままで値下がりに転じたという感じです。

これはハイウエーでの 渋滞がいつのまにか解消してスムーズに車は流れるようになったが渋滞が発生した理由は判らないままといったこと と似ています。もっともビジネスウイーク7月9日号によれば高騰の大きな原因の一つは石油精製工場でのメインテ ナンスその他の理由による稼動率低下のために在庫量が減少し、いわゆるサプライ・デマンドのアンバランスを生じ たことであるとのこと、しかしその工場の生産も通常に戻り、さらに景気低迷のアジアから過剰ガソリンがアメリカ に流れ込んだこともあって小売価格は急速に下落したとあります。しかし多くのアメリカ人はブッシュ大統領がテキ サス出身で石油業界を支持基盤としていることから、石油会社の不利益になるような政策はとるまいと信じており、 ビジネスウイークの説明がどれだけ真の原因であったとして受け入れられるかは疑問でもあります。

第2の不可解な点はこれだけ高騰したのに意外とアメリカ人が冷静なことです。車がなくては生活出来ないこの国で 、その車を動かすもととなるガソリン価格が20%も上がっているのに何故思ったほど騒がないのか、アメリカ人に 聞いてもはっきりしません。 これは私が勝手に想像した理由ですが、ガソリンの供給が急減してスタンドに長蛇の列が出来た1970年代2度の オイルショックと違い、値段は高くなったが品切れの心配は一部の地方を除いて無かったという点もあります。ガソ リンが買えなくなったらアメリカ人はパニックになります。 1979年に発生した第2次オイルショックの時に私 はロスアンゼルスに駐在していいましたが、アメリカ人にとってのガソリンの意味を痛感しました。 

今回はお金さ えだせば何とかなるので、あまり切迫感が生じなかったのでしょう。 また何と言っても車の燃費が良くなっていることが相対的にガソリン代が家計に占める割合を低めてきたかと思いま す。70年代には1ガロン当たりの走行距離が10マイル(1リットルで4.2キロ)といったいわゆるガス ガズ ラー(カソリンがぶのみ車)に乗っていたアメリカの消費者からすれば2倍近くまでに燃費が改善された昨今の車に 乗っている限り家計へのインパクトは低くなっているはずです。 それでもガソリン代を少なくする努力をしようとする心理が働くのは当然のことで先日 USA Today が読者サー ベイの結果として報ずるところによると今夏のバケーションは車による遠出は避けると答えていうる読者が多く、ガ ソリン代に対する反応の一つと言えます。

今回のガソリン価格高騰は思ったほど大きな騒ぎにはならなかったもののガソリンそのものが枯渇する時が来ること も、あまり遠い将来のことではないという漠然とした不安や、環境問題に配慮して低燃費で環境に優しいい自動車へ の税制その他の優遇措置が現実になって来ていることなどから、今後は低燃費車やガソリン代替エネルギー源を使用 する自動車への関心はさらに高まると予想されます。その領域で一歩リードしている日本車にとっては,追い風とい えるでしょう。次回はそのようなことも含めたアメリカの自動車事情をお知らせしたいと思っております。 貴重な時間を費やしてお読み頂き有り難うございました。

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