読物の部屋その17
★最近のスキー板に異変あり!(スキーは60 から可能★
    ーーーー仙波正弘  1999年12月7日


《スキーの季節になりました》
 朝晩、大分冷え込んできました。たにがわもうスキーのシーズンが到来です。このところ2年ほど 体調を崩していたため、遠ざかっていたスキーに、昨春さき、久振りにチャレンジしてみた。 板も久しく更新していないので、最新モデルを入手したのだが、ちょっと離れている間にこの ギョーカイが様変わりしていたのに驚いた。最近のスキーについて感じたたことを書き込みますので、 さらっと読み流していただければと思います。

《初めてのスキーからの道のり》
 スキーの経歴は長く、小学校の頃にさかのぼる。疎開先の新潟、南魚沼郡、六日町。コシヒカリの 中心地で、駅から1里あまりの山の麓の由緒あるお寺で、村の子供達とお寺の裏でスキーを遊んだのが最初だ。  村の雑貨屋で散々おねだりして買ってもらった「みずなら」単板の山型スキー(剛性を上げるため、 背面が山型になっている単板スキー)で、エッジは付いてなかった。滑走面には本堂のロウソクの 垂れたかけらをこすり付けたり、上級生が「使えよ!」と渡してくれた、クリスターボックス (確かそんな名前であった)という黒いワックスを手のひらが剥けそうになるほど下から上に向かって、 日に当てては伸ばしこんだものである。
 靴は普通の長靴で、金具はかかとが上がりすぎて足が脱げないように「前傾バンド」と称するものを 木ネジで付けるのが流行っていた。これで裏山の山道を50mほど滑り降りるのである。若干の左カーブが あるだけで、一本道。しかも、みんなが滑るため2本のレールが出来上がっているため、曲がる努力などする 必要は全くなかった。言ってみれば、立ってソリに乗っているようなものである。これがスキーに出会った 最初で、子供達は皆暗くなるまで滑って遊び、その時の面白さは頭の隅に焼き付いており、今でも忘れられない。
 六日町と言えば、周辺一体が全部スキー場で、石打、湯沢、塩沢、岩原。八海山も近い。こんな スキー場銀座の真ん中に居たにしては、裏山の林道の50mのみで、スキー場には行ったことがなかったのである。
 中学からは東京に引き揚げたので、スキー遊びから遠ざかり、次に始めたのが18歳の時。実際にスキーを 始めたと言えるのはこのときからになる。  

 最初の板は200cmの西沢のヒッコリーの合板。その次が小賀坂、ヤマハ、ブリザード、クナイスルの ホワイトスターと続き、変わったとこでは、石打のプロスキー学校の若林校長の勧めで、205cmの バンブースキー(竹の合板でいい板であった)。メタル時代に入り、フィッシャーのプレジデント200cm (これも良かった)。1966年、アメリカに駐在し、憧れの定番スキー、ヘッド。次がアルミハニカム構造の 名器ヘクセルの195cm(これは最高であった。5年以上履いた)。
  次のヨーロッパ駐在で初めて樹脂のスキーにした。と言うよりは樹脂のスキーしか無くなってしまったのだ。 ブリザードの195cm、フォルクルのP9の190cmGSモデル(すごく気に入った)、帰国してからこぶの 多い日本に合わせるため、オーリンのモーグルモデル185cmにしたのが7年前。つまり、最長205cm から185cmにするのに、40年掛かっている。つまり、10年間で5cmづつ短くしてきた勘定である。

 元来スキーというものは曲がらないものであり、それを人より旨く曲げるために色々と努力をしたし、 そこにこそチャレンジング精神をかき立たせる面白さがあった。大抵の人はあまりにも曲がらないため、 途中でやめてしまう。スポーツとは大体が結構難しいもので、極めるのにはたいへんな努力が必要だ。  そのスキーが最近初心者でもお年寄りでも両足をそろえて簡単に曲がれるようになったのだ。道具のお陰で。

《カービングスキー》
 持っている板も大分古くなったので、このさい買い換えようとスキーショップに行ってびっくりした。 とにかくスキーが短いのである。身長167cmの私ですら、昔は上に述べたように205cmを履いていたこともあった。 つまり、「手を伸ばして先端が握れるぐらい」が当時の常識。だが、店員の勧めるのは160〜170cm。 つまり身長と同じ、むしろ身長より短くていいという。
 今持っているスキーは7年前「歳も歳だし、あまりダンビラを振り回すのもどうか」と思い、思い切って 短くした185cmモノだ。それを更に20cmもいきなり短くするのは非常に抵抗がある。今までのペースで考えると、 40年掛ける勘定である。しかも、店に並んでいるほとんどのスキーが「かものくちばし」か「しゃもじ」 みたいな形の「カービング・スキー」と言う代物で、今までの見慣れた普通のスキーが見あたらない。
 店員に聞いてみると、そんな時代遅れ品は売れないし、お勧めできませんと言う。確かに、隅っこの方に 年式遅れのものが5〜6台置いてあるだけであった。

 ショックであった。これまではスキー界の先端を歩いてきたと思っていた。それがここへきて、世の中の 進歩に後れをとったと悟り、早速本屋に飛び込んだが、立ち読み程度ではとてもこなしきれなかった。 雑誌全体がカービング一色なのだ。仕方なく雑誌を買い込み、情報の収集に努めた。
 「カービング」と言うのは、CURVEではなくてCARVEでバードカービングのカーヴ。「ナイフで切り削く」 の意で、雪面を鋭いナイフで切り取るような細いシュプールを描くことの出来るスキーだという。雑誌の通り、 聞きしにまさる大流行であるが、調べてみると、これは世界的な傾向で、レースの世界から来ているという。 製品は、1.イージーカーブ 2.ピュアカーブ 3.エクストリームカーブ の3種類に分かれており、3.が一番 極端なカービングスキーになっている。

 一通り調べた結果、購入目標をカービングの良さを味わえるピュアカーブに決めた。メーカーは以前から 一度履いてみたいと思っていたロシニョール。店員の勧める170cmには5cmだけ逆らって174cm、と少しばかり 年寄りの意地を通した。というのも、裏(滑走面)を見ると、昔から付いていた溝が無いではないか。 どのスキーにも無いのだ。これで直進安定性が落ちないのか、板が左右にキョロキョロしないのか。 またスキーのサイドカーブがモンローカーブ(懐かしい表現だ)つまりコークボトルカーブなので直進性が 悪いはずだ。と心配になり、申し訳に5cm勝手に伸ばしたのが理由である。
 それと、今までになかった「カービングプレート」というもの(これが結構高いアクセサリーだが、 性能を引き出すためやむを得ないらしい)を板と靴の間にいれる。これで板全体が大きくしなりやすくなり、 傾けても靴の側面が雪面にタッチしなくなる。
 「エクストリームカーブ」というのは中央のくびれ方がさらに極端で、長さも150cm位しかない。 ストックを使わず、身体を雪面に付くぐらい傾けて、スノーボード感覚で楽しむニュージャンルのスキー。 最近はスキーがスノーボードに押されっぱなしであるが、「スキーの若者離れの救世主」がA00の戦略機種が このエクストリームであろう。もう少し体力が残っていればやってみたい気がする。

 最近のスキー業界は不況で、スキー客も大分減っているらしい。これは世間が不況だからと言うことに加え、 遊びが多様化していることもあろう。
 スポーツと言うものは、簡単なものはすぐに覚えてしまい面白くないものだ。チャレンジしてもなかなか 難しくて出来ないものほど、奥が深いということになり、人々を引きつけることにつながる。ポピュラーな スポーツを思い浮かべると、取っつきはよいがうまくなるのが大変、というのが多い。ゴルフ、釣り、テニス等々。 しかし、スキーは初めのうちは思うように曲がらないため、取っつきが悪いのである。
 あらゆるスポーツの最近の用具の進歩はすばらしく、誰もがすぐ上手くなってしまうようになった。 一番大きな理由は素材の進歩である。テニスのラケットなど昔の半分の重量しかない。スキーもまさしくこの 恩恵に浴している。
昔は(これを言う度に、また言ってしまったと年寄りを自覚するのだが)パラレルクリスチャニアと言う板を 揃えて曲がれるようになるまでに、ボーゲン、シュテムボーゲン、シュテムクリスチャニアとステップを踏んで からやっとパラレルが出来るようになったものだ。それも何年も掛けて。 ところが、今はいきなりパラレルから。初心者がパラレルですいすい曲がっていく。それは、靴が樹脂になり、 足にフィットするようになり、板が進歩した。しかも、ゲレンデが毎日整地されているからに他ならない。
 昔のスキー靴は編み上げの革靴なので、すぐに柔らかくなってしまうし、靴が浅いため雪が周りから入って溶け、 寒くなるとそれが凍ってしまう。その対策にみんな「スキーの靴下」と言う専用の毛糸のメチャ厚いロング ソックスを履いていたため、回転の時に身体や足をひねってスキーに力を伝えようにも上手く伝わらず、 だましだましスキーが回ってくれるのを待っていたものである。

 シーズン終りに近い2月の初め。神田のスキー街でやっと探し出したロシニョールのピュアカーブ。 群馬県片品スキー場へ早速試しに行ってビックリ仰天した。曲がりたい方向にスキーを傾けるだけで実に簡単に 曲がるではないか。まさしく切れ込んでいき、そのままにしておくと山側に切り上がっていくのだ。
 昔は(また出た)、曲がるためには色々な方法はあるにしても、基本的には軽くジャンプしてスキーの テール部の荷重を抜重しながらかかとを外側へ蹴り出す。いわゆる「後輪ドリフト」で曲がっていくのである。
 ところが、カービングスキーは傾けるだけで、先端部の広がった部分が雪面をとらえ、スキーがしなり、 その「しなりの円弧」で曲がるため、テールがずれない。いわゆる「前輪ステア」であり、ドリフトが無い分、 速く曲がれる訳だ。その円弧は細く、ナイフで切ったような跡が付くのでカービングと命名された所以である。
 カービングスキーになってなぜ板が短くなったのかが分かった。従来のスキーでも曲がっているときは しなっているのだが、スキーにくびれがないため、前部と後部のエッジが雪面から浮いてくる。 そのためその部分のエッジが効かなくなる。だからエッジを効かすためにやむなくスキーを長くしていたのだが、 カービングスキーは全部と後部を幅広にすることによって、スキーがしなったときでもエッジが雪面に 接している。 つまり、曲がっているときはカービングスキーの方が「有効エッジ長さ」がはるかに長く、スキー自体を 長くする必要と言うわけだ。

《60になったらスキーを楽しもう》
 20世紀が終わりそうになっていきなりスキーが進化した訳だが、なぜ今頃なのか。  それにしても、今までのスキーを劇的に進歩させた設計仕様が、「先端部分と後端部分の幅を20mm広げ、 全長を20cm短くしただけ」とは !!
 スキー板はたかだか幅10cm・厚さ2cm・長さ200cm 足らずの板で、先が雪に刺さらないよう先端を曲げて あるだけという実にシンプルな構造である。材質の進歩は確かにあったが、もう20年以上前から存在して いる材料であり、これが理由ではない筈だ。確かに「コロンブスの卵」的であるが、はっきり言って スキー開発者の怠慢である。
 モーターサイクルで言えば、20年前のバイク(CB750K)と最近(と言っても5年も前になってしまうので、 15年差)のCBR900RRを乗り比べるとその進歩に唖然とする。あらゆる点で段違いの進歩をしている。 まあこれが当たり前であろう。スキーの方がおかしいのだと思う。

 カービングスキーのお陰で我々年金生活者もスキーを楽しめるようになった。60を過ぎてからもテニス を始める人がいるように、若者の特権だと思われていたスキーを今から始めることが出来る。 なんと素晴らしいことではないか。そして、年相応に一寸でも吹雪いたらやめ、コーヒーブレークを 十分にとり、楽しむスキーに徹する。
 最近は60歳以上のリフト券の割引は当たり前、2食つき1泊6500円などというシルバーサ−ビスも 登場している。「白銀の別世界に温泉で1杯」、2日遊んで1日のゴルフ代より安い。 やらないテはない。勿論現役のいない平日行動で。
ーーーー完ーーーー

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