読物の部屋その12
★米国シリコンバレーのダイナミズム★   
                       1999年2月28日(横山昭允記)


 ここ数年、起業家の塊である「シリコンバレー」に興味を持っていますが、 メールニュース版「企業家倶楽部」の、「メールニュース・ドット・コム」 http://www.mailnews.com/ より配信されたものです。
大変上手にまとめられていますので、ご興味のある方はお読み下さい。 私も過去2回ほど訪問しておりますが、その時の私見は後程アップ致します。

  ◇シリコンバレーのダイナミズム
    企業家精神とハイテク頭脳の集積地 (愛知 蔵人)  

 米国カリフォルニアのハイテク集積地・シリコンバレーは、世界に例を見ない 起業環境をもつ地域だ。「自分の頭脳と力で世の中を変えたい」──ハイテク腕 自慢の者たちが世界各地から集まり、単に会社を興すだけでなく、新産業の創出 を夢見る。そんな起業文化に教育も金融も法律も味方する。米経済にとっても柔 構造を維持する上での重要な要素なったシリコンバレーでの「起業システム・生 態系」とは何だろうか。

●ネットスケープ社買収の衝撃  

 九八年十一月末。その年のシリコンバレーにとって最大級のニュースが衝撃となって走った。米パソコン通信最大手のアメリカ・オンライン(AOL)によるネットスケープ・コミュニケーションズの四十三億ドルでの買収発表である。  

 それから一週間後、ネットスケープの二千三百人近い社員はシリコンバレーのある公会堂に集められていた。壇上に上がったのはAOLのスティーブ・ケース会長やネットスケープのジム・バークスデール社長ら。買収後の同社の行方を社 員に説明し、不安を取り除こうという趣旨だった。

「ネットスケープの企業文化は素晴らしく独立心に満ちている。もちろんそれを いじったりはしませんよ」。ケースAOL会長がこう宣言した。さらにネットスケープブランドの維持、追加ボーナスの支給、事業拠点は今まで通りシリコンバ レーなど、ソフト技術者たちを引き留める策も次々と発表した。
「AOLによる買収でネットスケープはだめになる」当初、社員や業界関係者にはこんな見方が強かった。自由で奔放、技術志向の強いネットスケープと、マー ケティング重視のAOLは水と油。優秀なプログラマーは、買収後さっさと辞め て自分でベンチャーを起業するだろう。だからこそケース会長は引き留め策に腐心したのだ。
それほどシリコンバレーの「住人」にとって、起業環境や技術者が過ごしやすい文化は一種のプライドにもなっている。

 ヒューレット・パッカード(HP)やインテル、アップルコンピュータなど世界のハイテク業界を先導する企業群を輩出したシリコンバレーだが、ネットス ケープはそれに匹敵するだけの影響力を創業からわずか四年で実現した。元スタ ンフォード大学の助教授でシリコン・グラフィックス(SGI)創業者でもある ジム・クラーク氏と、イリノイ大学でブラウザー(閲覧ソフト)を開発した天才学生、マーク・アンドリーセン氏が九四年に設立した同社は「ソフト産業史上最 高のスピードで成長」(バークスデール社長)し、一時はソフトの巨人、マイク ロソフトのビル・ゲイツ会長を恐怖のどん底に陥れるほどの勢いを見せた。  

 両社のブラウザー戦争は司法省によるマイクロソフトの独占禁止法訴訟にまで発展した。だが、ネットスケープの隆盛が意味するのは「インターネット」とい う十年前には存在しなかった産業を創造した点にある。短期間に同社の株式時価 総額四十億ドル強を生み出すと同時に、ヤフーやアマゾン・ドット・コムなど米 有力オンラインベンチャーの登場を促すための「ツール」を提供。世界中の人々が簡単にパソコン上で双方向通信を利用できる環境ができあがった。  

 その価値は創業した本人たちも十分理解し得なかった。事実、バークスデール 社長自身は地元紙でこう述懐している。「四年前に創業したときに我々は、自分 たちがどんな業界に生きているのかはっきり理解していなかった」。  

 独立会社として生きる道を捨てて、AOL傘下で技術の存続を選んだネットスケープ。「あまりにも生き急いだ」(地元紙)そのスタイルは、まさにシリコン バレーの起業文化を体現しているかのようだ。

●のどかな果樹園がハイテク、インターネット産業のメッカに変身  

 米西海岸のサンフランシスコからサンノゼまで、半島沿いの六十マイル(約百 キロ)に細長く伸びる地域がシリコンバレーである。かつてのどかな果樹園だっ た地がハイテクのメッカに転身するきっかけは、約百五十年前のゴールドラッ シュに端を発する。  

 ゴールドラッシュに付随して金融、鉄道、水銀、衣料などの会社がサンフラン シスコを拠点に富を蓄積。そんな中スタンフォード家は東海岸のハーバード大に 対抗しうる名門大学の創設を夢見て、一八八五年にスタンフォード大学を創設した。  

 起業家精神に富む同大から生まれたのがHPであり、同大が進めてきた工業団 地構想もゼネラル・エレクトリック(GE)など全米の有力企業を誘致する大きな推進力となった。  

 一九五〇年代以降は、トランジスタを開発したショックレー半導体研究所から 優秀な技術者らがインテルを始め様々な半導体会社を立ち上げ「シリコン・バ レー」の名を得た。しかし同地の真骨頂は、今までの得意分野にとどまることなく、時代に応じて 様々な技術・産業を生み出してきたことにある。  

 九六年、HP創業者の一人、デビッド・パッカード氏が死去した。折しもネッ トスケープが株式公開を果たし、それに誘発されたインターネットベンチャーが 続々と登場している時期である。まさにハードからソフト、インターネット全盛 時代への世代交代を象徴する出来事であり、かつインターネットほど世の中を劇 的に変える可能性を秘めた技術はない。そのネットの「大衆化」はベンチャー企 業群なしにはあり得なかった。

 「ネットの爆発的な普及速度を見て、こんなチャンスを逃したら一生後悔する と思った」。”地球上最大の書店“を標榜するアマゾン・ドット・コムのジェフ ・ベゾス創業者は、ウォール街の投資銀行に勤務していた時にこんな思いにとら われ、四年前に妻と二人で事業計画書を手に西海岸へと向かった。オンライン通 販の先駆けとして書籍、CD、映画ビデオですでに最大手の地位を確保。既存の 大手書籍チェーンなどもネットの威力を無視できず、次々とオンライン販売の ホームページを立ち上げている。

●幕を開けたポータル戦争  

 ほんの三年前、インターネット産業を巡るブームを「単なる熱狂」と表現する 米メディアは少なくなかった。確かに技術的に不完全な部分も多く、通信インフ ラの面から見ても高速回線の整備は遅れ、動画や音声を扱う本物のマルチメディ アにはほど遠かったからである。しかし、この数年で状況は一変し、インター ネットは双方向性を備えつつ「第四のマスメディア」になる可能性を秘めた巨大媒体になろうとしている。  

 メディアとしてのネットの成長性を見てみよう。米国では視聴者五千万人に到達する媒体を一般的に「マスメディア」と呼んでいる。既存のマスメディアであるラジオは三十八年、テレビは十三年、ケーブルテレビ(CATV)は十年とい う長い年月をかけてじっくりと世帯への普及を進めてきた。

 一方のインターネットはネットスケープやスパイグラスによるブラウザーの商用化からわずか四年で五千万人を軽々と超え、その勢いは加速度を増しているかのようである。ヤフーなど無料の検索サービスがよりどころにしているネット上 の広告収入も毎年倍々ゲームで伸び、電子商取引に伴う収入も有望だ。そして今、ネット各社が競うのは、あらゆる情報の窓口として自社のサイトを利用して もらう「ポータル(玄関口)」としての地位を確立することだ。AOL―ネットスケープのように提携やM&Aを通じた熾烈な「ポータル戦争」が幕を開けた。

●世界中で求められるシリコンバレー的な起業システム  

 企業や人間同士のネットワークを活用した高度な水平分業モデル、流動性が高 い人材供給の仕組み、通常の融資からリスクマネーまで多様な金融支援システ ム、そして失敗してもリターンマッチが許され社会全体が起業を勇気づける雰囲 気に包まれている――こんな風土が確立したシリコンバレーはハイテクベン チャーの理想郷かもしれない。

 だからこそ世界中の超一流のエンジニアが続々と西を目指すのだ。高性能コン ピューター用基本ソフト(OS)「Linux(リヌックス)」の開発者、ライ ナス・トーバルズ氏も、母国フィンランド・ヘルシンキから同地にやってきた。 「ハイテクの世界で生きていくなら中心地にいなければ」。金もうけよりは、壮 大な趣味、技術者としての探求心をくすぐられ、彼は現在、半導体ベンチャーに勤務する。

 だが思い返せば、日本にもこんな集積地がなかっただろうか。高度成長期の機 械、電機産業を底辺で担ってきた大森・蒲田を中心とした京浜工業地帯。ここには下請けとして日本中から成功を夢見た若者らが集まり、トタン屋根の貸工場を 舞台に高度な機械加工を競った。大企業はこうした中小企業群の技術を「コモン ・ルーツ(共有の技術資産)」と呼び、国際競争力ある完成品を生み出した。

 もちろん京浜工業地帯とシリコンバレーの違いを挙げ始めればきりがないし、 日本の法律や金融、各種制度の不備も多く残されている。しかし、シリコンバ レー的な起業システムは決して地球の裏側のものではない。新産業を創出する若 いベン チャー人の気概、そして成功への貪欲さはどの国でも共通に存在するのだから。         (愛知 蔵人)

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